卒業設計発表会(2019年度)&吉原賞選考会議レポート

横浜国立大学建築学科では、毎年開催する卒業設計発表会と吉原賞*選考会議を、一般に公開して実施しています(*その年の最優秀卒業設計に授与される賞)。
一人ひとりのプレゼンテーションに対する質疑応答では、教員たちと学生の対話から、新たな学びが生まれました。特に今年の卒業設計作品は、教員たちが口をそろえて「質が高かった」と評する内容に。
学部4年間の集大成となる卒業設計発表会と、それに続く吉原賞選考会の様子をレポートします。
日時:2020年1月28日(火)10時~18時30分
会場:横浜国立大学メディアホール
卒業設計発表会の様子
2019(令和元)年度の卒業設計発表会では、全22名の4年生がプレゼンテーションを行いました。分野で分けると「建築デザイン(AD)」が19名、「建築理論(AT)」が2名、「都市環境(UE)」が1名です。
発表会では一人5分間のプレゼンテーションの後、10分間でクリティークの教員たちとの質疑応答を行います。会場には都市やエリアの建築模型と、図面やパース、スケッチなどのパネルを展示。
ほぼ予定どおりのスケジュールで発表は進みました。会場となったメディアホールのステージを左右に分け、右側の発表者が終わったら、すぐに左側で次の発表者がプレゼンテーションをはじめ、その間に右側の発表者が模型、パネルを撤去し、次の発表者が模型とパネルのセッティングを行う、といった流れで進行します。
発表者にはそれぞれ数名の下級生がヘルプで加わり、模型と展示の設営と撤去に参加します。そのチームワークもみごと。下級生たちは模型やパネルづくりから関わっており、受賞などに絡んだ際にはメンバーみんなでねぎらい合う一幕も。

教員と学生の豊かなコミュニケーション
本学の卒業設計発表会の特色のひとつが、指導教員だけでなく、常勤・非常勤問わず基本的にはすべての教員がクリティークとして参加するところです。「建築理論」「都市環境」「構造工学」「建築デザイン」、それぞれの分野の専門家から多角的なフィードバックを得られる環境があります。そのため教員によって着眼点やコメント、評価もさまざま。学生にとっても視野が広がり、学びの多い時間になりました。

教員からは「今年の発表は、図面やパネルの意図が明快で、レジュメの内容も充実している」といったフィードバックが目立ちました。卒業設計として6ヶ月間取り組んできた、思考のプロセスがみっちり反映された学生たちのプレゼンテーション。批評する側の熱量も自然と上がり、密度の濃いやり取りが続きました。
ある設計作品に対しては「建築はマテリアリズムです。物にどう置き換えるかという努力が、建築をつくるということ」といった本質的な指摘が投げかけられ、また別の設計作品に対しては「想定する都市のイメージが、イメージのレベルで終わっているのではないか。もっと辛抱強く設計していく必要があります」といった厳しい意見も。
卒業設計における課題は、学生たちにとって関わるスパンの長いテーマです。「個人の興味をいかに深めていけるかが、大事なポイントになってきます」というアドバイスもありました。今年は面白い主題が多かったというコメントもあり、「卒業設計で見つけたテーマを、大学院でも引き続き深めていってほしい」と学生たちの今後にも期待が込められました。
街に働きかける建築を提案する卒業設計
建築だけで勝負するのではなく、「街に対して具体的に働きかけることで街全体を機能させる視点があったのは良かった」という言葉に象徴されるとおり、特に今年の卒業設計には、既存の街をじっくり考察し「発想の転換で課題を解決する」アイデアが多かったようです。以下に、今年評価の高かったいくつかの設計作品の概要をご紹介しましょう。
・郊外住宅におけるバス路線を問い直す設計。各住宅が「バス停を所有する」ことで、街の中のプライベートとパブリックの構成を一変し、人をつなぐための空間を生み出す。
・土砂災害や河川氾濫の危険がある場所における根本的な土地利用の問題に対し、都市計画的アプローチで、既存店舗を災害拠点兼人々の居場所として再生する設計。
・丘陵住宅地の頂上に広場をつくり、それを地域の低速交通化の拠点とする設計。高齢者が多く暮らす斜面地で、小さな乗り物と生身の身体を主役にし、丘の居住圏を育む。
・社会に開かれた学びの場として、街をつくるように学校をつくる設計。図工室や運動場といった学校の機能を地域に開き、学校でありながら街の一部でもあることを目指す。
いずれも何か一つの建築を設計するのではなく、街全体を対象として扱い、都市計画にも近いビジョンを提案していることが分かります。

本学の建築学科では、1~3年生は研究室に所属しません。3年間は4つの領域「建築理論」「都市環境」「構造工学」「建築デザイン」での学びをとおして建築に対する考え方を身に付け、4年次にようやく研究室に所属し、設計か論文の卒業研究に取り組みます。このような教育のプロセスによって身体化された、建築を考えるときに都市を起点とする考え方が、卒業設計にも反映されていたようです。

教員からは、普段の学びの成果が実感されたという声も多くありました。「空間は人の生活に、日常的に関わるものです。そして地域性や社会的な側面ももちろん絡んできます。そういったことを含めて設計しようと伝えてきましたが、それぞれの設計にその視点を感じました」。
今年度はゼミのやり方を変え、毎週本を読むことを課したという教員は、思考の過程がアウトプットに結び付いたと語りました。「学生時代には本を読み、そこから思考することが重要なのだと改めて感じています。それぞれの発表に、ここまできたかと感銘を受けました」。
また「全体としては、計画の密度が高い設計が多かった。やり切れていない部分があった人もいると思いますが、質の面では一人ひとりに大きな差はなかったと思います。課題に対して踏み込んでいたのが良かったです」という評価もあり、学生たちにとっても手ごたえを得た発表会になりました。
吉原賞選考会議の様子
午前10時から17時ごろまで計22名の発表を終えたあと、会場転換をしていよいよ吉原賞選考会議が始まりました。発表へのクリティークと同様、選考会にももちろん非常勤・常勤を含めた全教員が参加します。

選考のプロセスは、1回目の投票で一人3票を投じ、票の多かった5名の学生を対象として最終投票を実施。2回目の投票では、各教員が最優秀と次点を選び、その集計にもとづいて吉原賞が決定しました。栄えある受賞者は「頂上広場が街暮らしのビジョンを映す」を設計した小野正也さんでした。前述した、丘陵住宅の頂上に広場をつくり、それを地域の低速交通化の拠点とする設計作品です。
受賞のスピーチでは、志を同じくし、切磋琢磨してきた「同期のみんな」に感謝の気持ちを伝えた小野さん。「家を建てるだけが建築家の仕事ではない、それだけではだめだということを学ぶことができました」と4年間の学びを総括しました。




学部4年間の集大成となる卒業設計の発表。教育的な側面では教員から妥協のないコメントが飛び交いましたが、会を振り返ると「すばらしかった、感動を覚えた」という声が多く寄せられたのが印象に残りました。
「こんなに感動した卒業設計は何年ぶりだろう。それぐらい皆さんすばらしかったです。学外にも推薦したいと思える良い設計が集まった会になりました」。「この機会に社会にあるさまざまな問題が発見され、皆さんのプレゼンテーションを聞いて未来が見えてくるように感じました」。このような評価と、学生たちのこれからへの期待とともに、卒業設計発表の長い1日が締めくくられました。
取材・文:及位友美(voids)
写真:大野隆介