「絵画・彫塑・基礎デザインⅠ」授業レポート

本学の建築学科では、1年次から始まる専門課程の学びの中で、数学や哲学、歴史や芸術などの「教養」を学習する側面があります。中でも対象物を捉える基本的なデッサン力と、立体的な造形力を身に付ける「絵画・彫塑・基礎デザイン」は、選択科目でありながら毎年ほぼ全員が受講している授業です。
「絵画・彫塑・基礎デザイン」では、建築に携わるうえで必要不可欠な、人の身体を捉える視点を養います。どのように「人」を観察し、新たな視点でクローズアップしていくか? 学生たちの学びをレポートします。
「絵画・彫塑・基礎デザインⅠ」はどんな授業?
1年次の春学期と秋学期、それぞれに別の内容がプログラムされている「絵画・彫塑・基礎デザイン」の授業。まずは春学期に開講している「絵画・彫塑・基礎デザインⅠ」の内容をご紹介しましょう。
春学期「絵画・彫塑・基礎デザインⅠ」
・絵画(デッサン)
・彫塑(人物像制作)
半期をとおして、紙に鉛筆で描く自画像のデッサンと、粘土を素材に友人の頭部像を制作する彫塑に取り組みます。ガイダンスを含め1日90分×2コマ、計7日間の制作時間がデッサンと彫塑のそれぞれに設けられ、じっくりと制作ができるプログラム。
本授業を担当する高畑一彰先生は、東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻を修了し、彫刻家として活動するアーティストです。また本学だけでなく、美術予備校や美術大学などでも教鞭を執っています。

「美術や彫刻の基礎的なスキルがなくても受講できるのか?」と気になる方がいるかもしれませんが、心配は要りません。建築学科に本授業がある目的は、上手な絵の描き方、彫刻のつくり方のスキルを身に付けることではないからです。
また一人ひとりの学生が、授業中に先生から直接アドバイスをもらいながら作るため、基礎的な造形力を補いながら作品づくりに取り組むことができます。はじめは戸惑いながら制作をしていた学生も、先生のアドバイスや仲間の様子に刺激を受けながら、自分なりの視点を見つけて制作に打ち込んでいきます。
2つの課題、絵画(デッサン)と彫塑(人物像制作)の狙い
毎年春学期にプログラムされている、自画像を描く絵画(デッサン)と、友人の頭部像を粘土で制作する彫塑(人物像制作)の課題。それぞれの狙いを、高畑先生に聞きました。

高畑:デッサンは絵画を描くときの基本ですが、毎年この授業では学生に自分の姿、自画像を描いてもらっています。学校に入って間もない学生たちは、希望や期待、不安がごちゃ混ぜにあるような状態です。この授業では、単に何かを描くのではなく、そのときの自分の姿を見直し、自分の心情を表すことに挑戦してもらいたいと考えています。学生たちは、見慣れている自分の顔を改めて客観的に見る。そんなものの見方を身につけることを目指しています。
さらに友人像を粘土で作る際には、二人一組になって向き合い、何もないところから粘土の塊で友人の頭部を立ち上げていきます。少人数制の本学では、学生たちは毎日のように顔を合わせているでしょう。そんな友人の顔を改めて彫刻にするとき、いつもと同じ見方では作ることができません。前だけでなく横や後ろなど、いくつもの角度から友人の顔を捉え、普段は気付いていなかったことにも、気付く必要があるでしょう。そして友人の顔を改めて捉えなおしながら、制作していかなければなりません。この授業では、新たな視点でものごとを捉える“目”を養ってもらいます。これまでには見えていなかったことに、気付いてもらえたらと考えています」

自分にとっての「等身大」の大きさを探る
粘土の彫刻は、芯となる木の棒「芯棒」を立てただけの何もない状態からスタートします。課せられた課題は、「等身大のリアルな大きさ」を目指して作ること。
学生たちが制作した友人像を見ていると、人によって頭部の大きさがまちまちで、小さい頭もあれば大きい頭もあったのが印象に残りました。そこには学生たちの「個性」が表れているのでしょうか。彫刻作りは、芯棒に粘土をつけながら、自分にとっての「等身大」の大きさを見つけていく作業になると高畑先生は話します。
高畑:『等身大』といっても、その人なりの等身大の大きさがあると思うんです。あまり制約を設けると面白くないので、厳密に同じ寸法にするということではなく、ある程度自由度をもって制作してもらうようにしています。
ガイダンスを含めた計7回ずつの制作を終えると、最後に講評会を行います。自画像と彫塑を合わせて実施する講評会では、学生たちがそれぞれの作品をどのような気持ちで制作したか、またどのようなところに注意をしたか、自分なりのポイントをコメントします。それに対して高畑先生がコメントを返し、場合によっては学生同士で質問や意見を交わすことも。作り上げた達成感を得られる時間です。

「絵画・彫塑・基礎デザインⅡ」で取り組むこと
本学の建築学科は1学年70名の少人数制です。選択科目でありながらほぼ全員が履修する「絵画・彫塑・基礎デザイン」は、1学年をA・B・C・Dの4グループに分け、1グループ16名前後で行っています。そして春学期を受講した学生は、ほぼそのまま秋学期の授業を受講するため、グループもシャッフルすることなく持ち上がるそうです。
続いて秋学期の「絵画・彫塑・基礎デザインⅡ」の様子も、少しだけご紹介しましょう。
秋学期「絵画・彫塑・基礎デザインⅡ」
・テーマ「知覚する椅子」
秋学期の「絵画・彫塑・基礎デザイン」では、自身が座ることを前提とした椅子を作ることが課題になります。導入として椅子を彫刻するためのドローイングを行い、木材や身のまわりにある日常的な素材など、各自で素材を用意して制作に取り組む授業です。
椅子を制作するプロセスでは、デザインをして、加工をして、最終的に自分で座ることができる椅子を作るため、構造的な課題が出てきます。ここではデザインを大切にしながらも、構造に伴ってどのような材料で制作に取り組むかを考えます。
高畑先生は「知覚する椅子」の課題をとおして、学生たちにどのような学びを期待しているのでしょうか。
高畑:私たちの生活の中にある椅子は、直接的に身体に関わるものですよね。座ることによって、身体にどんな作用が起こるのかを考えてもらうことが、この授業における大きなテーマだと思っています。
春学期のデッサンや彫塑にも『人』に対して向き合うテーマがあり、後半の椅子でもやはり『人』に関わることが大きなテーマになっています。一年をとおして、結局同じようなテーマに取り組んでいるのかもしれませんね。
1年次の学生たちが、これからどんな分野に進んでいくかは分かりません。将来、何らかの形で建築に携わるとき、人間の身体に建築がどのように作用するかを考えることは、欠かすことのできない視点になるでしょう。自己や他者に向き合う姿勢が求められる「絵画・彫塑・基礎デザイン」は、このような視点を身に付けることを目的とした授業です。

取材・文:及位友美(voids)
写真:大野隆介