羽沢横浜国大駅周辺を都市科学する~大型都市模型制作プロジェクト~

2022年の夏の終わりごろから横浜国立大学の都市科学部プロジェクトとして羽沢横浜国大駅(以下羽沢駅)と横浜国大キャンパス(以下横国)を含む広域の都市模型の制作計画がスタートした。これは羽沢駅の旅客事業開業に伴い、今後羽沢駅・地域と横国との連携や研究等が活発化されるのを見こし、まずはお互いの地理的コンテクストを客観的に理解するためのツールとしての大型模型の制作である。
<2019年に開業した羽沢横浜国大駅>
プロジェクトの座組としては、まず建築学科AT系の大野敏教授が計画全体の主導となり、そして私、建築家の原田雄次(2011年卒)が模型制作に関する制作指揮を行い、アシスタントとしてY-GSAのM1の藤澤太郎君と前本哲志君が制作の実働部隊として参加した。さらには学部3年生の授業とも連携することで、総勢20名弱の学生にも参加いただいた。
製作期間は2022年10月から2023年3月末までの6か月間である。私自身一つの模型制作にこれほど多くの時間を費やすことも初めての経験であった。まずはどの範囲で、そしてどの縮尺で模型を作るべきかという議論が始まった。
<地図による平面的な模型範囲の検討>
羽沢駅と大学キャンパスが含まれることは必須とし、その上でそれぞれが影響を及ぼす範囲を平面的に、そして立体的に探る作業である。最終的には縮尺1:500、横2,4m x 縦2,7mの範囲を6つの模型範囲に分割して作ることにした。
<3Dモデルによる立体的な模型範囲の検討>
この模型範囲の決定にクリティカルな影響を及ぼしたのは何の素材で模型を作るかということだ。私はこの大学周辺の豊かな地形の高低差、畑や大学の木々といった緑、そして大地の雰囲気を表現したかった。模型の雰囲気はもちろんのこと、作りやすさや材料の調達方法・規格などを踏まえていくつかの方法を検討した結果、コルクシートをコンタ状に積んで地形を表現することにした。また上物の住宅等のボリュームは木のブロックを用いることで、全体として都市模型の抽象度を保ちながらも素材感のある模型を目指した。
<コルクシートと木ブロックによる部分スタディ模型>
模型制作がスタートしてすぐに、A1コルクシートのべ300枚を積み重ねる量の模型を私とアシスタント含めた3人で完成さるのは難しいと悟り、大野先生・守田先生・菅野先生にご協力いただき学部3年生のAT系演習として模型制作に参加してもらうことになった。ただし作業として模型作りに参加するのではなく、制作範囲を理解するためのフィールドワークし、各自興味を持った箇所についてスケッチをもととした考察を行い、また模型上の重要要素である樹木や畑の表現についても積極的に提案してもらうことで、身体的な都市体験とそれを客体化する模型のシンクロ性を高めることを図った。
<羽沢駅周辺のフィールドワーク(畑)>
<大野先生が研究されている釜台地区の古民家“花三郎の家”の見学>
<模型範囲のエリアごとの特徴を議論する>
<フィールドワークを通して発見したことのスケッチ>
<学生が提案した樹木や畑の模型表現のスタディ>
<模型制作含めたAT系演習の中間発表>
製作の手順として、まずは図面のコンタラインに合わせてひたすらコルクシートをカットしていく。
範囲ごとでコルクのカットが完了したところからボンドで接着していく。
コルクの接着が乾燥したら、道になる部分以外をマスキングし、ニススプレーを吹いて道を着色していく。
さらに小口をやすり掛けし、模型範囲同士の接続を調整する。
ここまでが模型のベースとなる地形部分の制作である。
次に上物の制作に移る。まずはこの地域及び大学キャンパスの特徴ともいえる豊かな樹木を作っていく。作り方は直径10~20mmの発泡スチロールの球体に虫ピンを刺し、そこに粒状のスポンジを接着する。模型範囲が広大なだけに大量の樹木が必要となり、最終的には約1,500本の樹木を制作した。
<航空写真に樹木を仮配置する>
次に来るのは住宅等の小ボリューム群の制作である。まずはそれぞの模型範囲のボリュームの大小及び高さをリサーチする。こうしてみると戸建て住宅と大学キャンパスの校舎の大きさの差が顕著である。
<模型範囲⑤のボリューム高さのプロット>
大学キャンパスを除く大部分は戸建ての住宅地であり、これらは大きさ毎に木棒を金太郎飴的に卓上丸ノコでカットしていくことで量産体制を整えた。最終的な木片ボリュームの数はおよそ1,800個に及ぶ。
また大学の校舎やマンション等の大規模のボリュームは薄い航空べニアを用い、角をトメ加工することで、作りやすさと木のボリュームのマッシブな印象を損なわないような作り方とした。
これらを配置していくとコンタの大地が徐々に街になっていく。
模型制作の作業量の多さから途中幾度か「終わらないんじゃないか…」と不安に思うこともあったが、ヘルプの学生やTAのふたりの頑張りによって何とか3月末の完成に間に合わせることができた。
こうして模型を俯瞰してみると、大学キャンパスの緑の多さ、羽沢貨物駅の地形的特徴、バス通りと住宅地の関係など、この大学に長く携わっていながらも気付いていなかったこの地域の特性をいくつも発見することができる。今後この模型が実習や研究に活用され、模型制作に携わった人以上にいろんな人の手が加わっていけば、それはこの模型にとってきっと幸せなことである。
制作協力学生
藤澤太郎、前本哲史
石井優歩、石川泰成、石鍋あき乃、今村澪、岡崎礼佳、勝部涼亮、櫻井美里、貞松知之、篠沢耕太、庄司友貴、泉田佑太、高橋彩音、田中莉聖、陳宇澤、照井甲人、寺田智之、中川貴裕、馬鳥智貴、廣瀬竜太、三嶌大介、藤本梨沙、前田大貴、柳澤修也、渡邊航介
文:原田雄次
写真:原田雄次